熱
熱は身体の異常を察知しやすく、客観的所見としても捉えやすいものです。ただし熱は病気と闘うために必要となる反応でもあり、単に解熱薬を使えばよいわけではありません(有害となる場合もあります)。原因となる病気を診断・治療することが必要です。患者さんの病歴(症状・経過・背景)および身体診察から熱源を想定するよう努め、検査(血液や痰・尿の検査、いろいろな画像検査等)の必要性も検討します。熱を起こす代表的な病気は感染症ですが、この場合はからだのどこの臓器が侵されているのか・原因微生物はなにかを考えていきます。ほかにも腫瘍やリウマチ関連もしくは「不明熱」として更なる精査・判断を必要とする病気もあり、熱の診療は実に幅広く奥深いものと言えます。
のどの痛み
ウイルス感染による炎症が多いですが、溶連菌感染症もよく問題となります。溶連菌については症状をスコア化して判断もするのですが、一般論として症状が一部に限局している場合は、細菌性を示唆する強いヒントになります。のどに限局した激しい症状として、強い痛み・唾液の嚥下障害・流延(よだれ)・開口障害(口が開きにくい)等がある場合は、首周辺の危険な感染症(急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、ルードヴィッヒ・アンギーナ、レミエール症候群、咽後膿瘍の5つ)ではないかを早急に判断します。のどに炎症の所見がみられない場合には、甲状腺や頸椎前面の筋肉に炎症を起こす病気も考えます。また、心筋梗塞や大動脈解離が「突然発症するのど痛」として現れることもあります。「のど痛」と一括りに言っても、症状の詳細や身体診察から、上記のような疾患を「のどだけをみずに」原因が何かを考えます。
胸痛
「胸痛」と感じても、実際に胸からの痛みとは限らず、心臓・血管系、呼吸器、食道、肝胆道系、筋骨格など、どこに由来した痛みなのかを探る必要がありますが、まず何より先に心電図をとることを考えます。狭心症/心筋梗塞の場合には一刻も早い対応が必要となり、この診断のために心電図が有用であるからです。患者さんからの情報収集(病歴)としては、OPQRSTを確認します。Oはonset(発症様式)、Pはprovocative/palliative(増悪・寛解因子)、Qはquality(痛みの性質)、Rはregion/radiation/related symptoms(部位・放散痛・随伴症状)、Sはseverity(重症度)、Tはtime course(時間経過)です。
大事な血管が「詰まる(狭心症~心筋梗塞、肺血栓塞栓症)」「裂ける(大動脈解離)」、臓器に「炎症が起きる(胸膜炎~膿胸、逆流性食道炎、心膜炎、縦隔炎、胆管・胆のう炎など)」「破れる(気胸、縦隔気腫、食道破裂など)」といった病態は急を要します。
また、外傷歴や体動で増悪するものは筋骨格由来を考えます。肋骨骨折(咳やゴルフで起きることもあり)では圧痛のほか介達痛(疼痛部位ではなくその両端から外力を加えることで痛み誘発)が認められます。筋骨格由来の症状と判断すれば「内科の領域ではない」とされがちですが、肋軟骨炎に類似したTietze症候群(若年者の第2-3肋軟骨接合部に好発し罹患部位が腫脹する特徴)では悪性リンパ腫などの悪性腫瘍と関連する場合があり注意が必要です。
他に、ヘルペスウイルス感染(の再燃)による帯状疱疹も胸痛が主症状となりますが、皮膚症状より疼痛が先行し、また痛む程度や性状が様々であるため診断が難しい場合があります。
息苦しさ
慢性の経過か急な経過かで考える病気が少し異なります。慢性の経過であれば、心不全・COPD・気管支喘息・間質性肺炎の頻度が高く、急に息苦しさを起こす状態として、それらの慢性疾患の急な悪化(心不全の急性増悪・COPDの急性増悪・気管支喘息発作・間質性肺炎の急性増悪)や肺血栓塞栓症・肺炎・気胸・パニック障害などの病気があります。
心臓や肺に関わるものが多いですが、高度な貧血や甲状腺疾患、神経筋疾患(ALSなど)でも息苦しさ/息切れを認めることがあります。
緊急性があるかどうかをバイタルサイン(意識・血圧・心拍・呼吸数・体温)の異常や危険な不整脈や胸痛の有無、身体所見(上気道閉塞や緊張性気胸の所見など)からまず判断したうえで、鑑別診断を想起・診断の絞り込みをしていくことになります。
動悸
動悸があれば、まず心臓の病気を心配されるかもしれませんが、実際に心臓由来であることは半数以下です。症状がある際に実施した心電図が正常であれば、心臓由来の症状は否定的となりますが、診察時には症状がないこともよくあります。まずはその“動悸と表現されるもの”が「脈が速い」「脈が飛ぶ」「脈がバラバラ」のいずれかに該当するかしないかなど患者さんに詳細に伺います(指タップで再現できるか試したりします)。頻脈の始まりと終わり際がはっきりしている場合は、発作性上室性頻拍の診断のヒントになる等、問診は大切な情報源になります。
診察時に脈が速い場合(頻脈)には心電図が診断に必須となります。心電図のQRSという波形の幅が広いか狭いか、脈のリズム等を確認します。QRSという波形の幅が広い場合は、心室性頻拍という重篤な病態をまず考慮し早急な対応を要します。QRSという波形の幅が狭い場合には、心房細動なのか発作性上室性頻拍なのか心房粗動・心房頻拍あるいは洞性頻脈なのかを考えていきます。またこれらの異常の背景・原因として心臓自体の病気以外に薬剤や全身疾患(甲状腺機能亢進症や貧血・炎症性疾患など),心因性(パニック発作や不安神経症)も考える必要があります。
診察時に症状も脈の異常もない場合には、24時間心電図なども考慮します。
腹痛
痛みの原因の手がかりとしてOPQRSTを確認します。Oはonset(発症様式)、Pはprovocative/palliative(増悪・寛解因子)、Qはquality(痛みの性質)、Rはregion/radiation/related symptoms(部位・放散痛・随伴症状)、Sはseverity(重症度)、Tはtime course(時間経過)です。
「腹痛」が訴えとなる疾患は多岐にわたり(おなかのなか以外の病気のこともあり)、また緊急の外科手術や内視鏡治療などを要するものもあります。
とくに注意を要するのは、突発性の場合(痛み始めの瞬間がはっきりしているもの)と持続痛の場合(改善せず長時間持続)です。
突発性の痛みを起こすものとして、「詰まる」「破れる」「捻れる」病気を考えます。
「詰まる」心筋梗塞・腎梗塞・脾梗塞・上腸間膜動脈塞栓症など、「破れる」大動脈解離・消化管穿孔・肝細胞癌破裂・卵巣出血など、「捻れる」絞扼性腸閉塞・卵巣嚢腫茎捻転・精巣捻転など、重篤かつ緊急性のある病気が多いため注意を要します。
痛みが持続し一向に改善しない場合、炎症がおなかの中で広がっている可能性があり、これも十分な注意が必要となります。
確定診断できずとも「急性腹症」として手術も視野に入れての診療・専門科への相談・紹介を考慮する必要があります。
下痢
急な下痢の多くは、自然によくなるウイルス性胃腸炎です。ウイルス性の場合には特別な薬はありませんが、経口補水液や必要時は点滴にて水分・電解質を補うようにします。軽症の場合には細菌性であっても同様の対応で改善しますが、症状が重く持続する場合には原因と想定される細菌に対する抗菌薬投与が必要となります。なお、細菌性のものとしてはカンピロバクターによるものが頻繁にみられるため、特に注意喚起が必要です。鮮度に関係なく鶏肉に付いているため、生食や調理過程で汚染(まな板や包丁に付着して伝播する等)の場合で起こりえますが、下痢に先行して高熱が出現するパターンがよくみられ、初期にはインフルエンザと見誤られるケースもあります。稀ですがギランバレー症候群(神経の病気で呼吸不全など重篤になることもある)を引き起こすこともあり、“鶏肉の生”は絶対に止めておいた方がよいです(法律で禁止されていないため、外食時には自ら注意せざるを得ません。鶏レバーやささみの刺身、鶏わさや鶏肉のたたき等は避けましょう)。
他に、たとえば薬の副作用・アレルギー・内分泌疾患(甲状腺や副腎の病気)などが下痢を引き起こすことがありますが、その場合は各々の原因にあわせた対応・治療となります。
また、全身の重篤な病気の一症状として下痢を呈する場合もあるため、バイタルサイン(意識、血圧、心拍、体温、呼吸数)や他の症状などを含めての判断も大切となります。
便秘
便秘とは、便の回数が減る(週3回未満)、排出に問題(強いいきみが必要・残便感など)がある状態です。生習慣改善や緩下剤による対症療法を考慮しますが、大腸がんによる便秘を除外することも大切です。おなかが張ってないか、嘔気や嘔吐の有無、便の狭小化(細い便)、血便、体重減少がないか等を確認する必要があります。また薬剤性の便秘もあるため、処方内容の確認・見直しも考慮します。
むくみ
むくみは下肢にあらわれることが多いですが、まず①両側か②片側かを判断します。
- 両側ともむくみがある場合は、全身に影響する病気を考えます。心臓・腎臓・肝臓の病気由来をまず考え、薬剤性(薬剤の副作用)、甲状腺の病気、骨盤内で血管を圧迫する病気(腫瘍性病変や尿閉による膀胱拡張など)、低栄養状態、肺の血管の病気(肺高血圧を起こす病気)などを考えます。むくみの出現経過や付随する症状・身体所見、過去の病気や治療中の病気・治療内容も含めて手がかりを探し、血液・尿検査、心電図、各種画像検査(レントゲンやエコーなど)を行い、原因に迫ります。若年女性では基礎疾患がなく、特発性浮腫(原因不明)、好酸球性血管性浮腫、月経前症候群といった病気でむくみを認めることもあります。また下腹部の手術や放射線治療後の方では、リンパ浮腫(片側性が多いですが両側もあり)を呈することがあります。原因は多岐にわたること・種々検査が必要となる場合があること・経過も含めての判断が必要となる場合があること・稀な病気もあること等から、初期には診断が難しいケースもあります。
- 片側のむくみの場合は、その下肢に限局したトラブルが起きていることを考慮します。血管の詰まり(「深部静脈血栓症」)・血液の流れ停滞(静脈の弁機能の問題・腫瘍や動脈などによる静脈の圧迫など)、皮膚の炎症(蜂窩織炎)、リンパ管の流れ停滞(リンパ浮腫)などにより、むくみが生じます。急な経過で片側の下肢むくみが生じた場合には、まず血管が詰まった「深部静脈血栓症」を考え、危険因子や所見をスコアにしたもの(Wells score)等を利用して判断しますが、迅速な対応が必要となる病気のため、とり急ぎ高次施設への紹介を考慮する必要もあります。
不眠
日本人成人の2割に慢性不眠を認め、60歳以上の約3割が何らかの睡眠障害を持っています。睡眠薬は根本的な治療とは位置付けられず、また連用による弊害(副作用・転倒リスク等)も懸念されるため、原因・併存疾患の有無も踏まえての対応が欠かせないものです。うつ病や不安神経症などの精神疾患や、よくある身体疾患(高血圧や糖尿病など)・薬物の影響・睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群による睡眠障害なども背景に認められることがあります。これらの関連する疾患自体の治療が不眠の改善につながる一方、不眠の改善が背景疾患の病状も改善することがあり、双方向性の関係があります。
高血圧
身近な病気ですが、通常は自覚症状がないことが多いために軽視されがちです。脳卒中や心筋梗塞など大事な臓器に悪影響が出て初めて症状が現れます。そうした合併症を未然に防ぐために血圧管理が大切となります。
原因を特定できない「本態性高血圧」が大部分ですが、塩分の摂りすぎや肥満などの生活習慣の要因が関わるため、これらの是正を基本に薬の治療も考慮していきます。腎臓や内分泌の病気などから高血圧となっている場合もあり(「二次性高血圧」と言われます)、この場合には原因となっている病気の診断・治療も必要となります。
脂質異常症
血液中に悪玉コレステロールや中性脂肪値が高くなる、または善玉コレステロール値が低くなることをまとめて「脂質異常症」と呼びます。症状のないまま、いつの間にか動脈硬化が起こり、心臓の血管の場合には急性心筋梗塞、脳の血管では脳梗塞になり、生命を脅かすものとなります。高血圧と同じく症状がないからと軽視はできません。
他の病気に伴って起こる「続発性」と、他の病気を伴わずに起こる「原発性」があります。
続発性には、甲状腺機能低下症や薬剤性(副腎皮質ステロイドや経口避妊薬によるもの等)があり、この場合には原因に対する治療や対応を考える必要があります。
原発性の場合には、まず食事療法、体重の是正、禁煙、運動療法といった生活習慣の改善が重要となります。
糖尿病
糖尿病は全身の血管を傷めつける病気です。初期には目立った症状はありませんが、進行に伴って口喝・多飲・多尿や疲れやすさ・体重減少といった症状がみられます。インスリンが十分に働かず高血糖状態となりますが、1型糖尿病は自己免疫で膵臓の細胞が壊されることでインスリン作用不足となります。2型糖尿病は膵臓の細胞がインスリンを十分に出せない・インスリン抵抗性を起こす複数の遺伝的素因・過食・運動不足・肥満などが関連して発症します。
眼・腎臓・神経へのダメージが三大合併症と言われますが、動脈硬化症から脳梗塞や心筋梗塞も生命に関わる病気となります。